第二次研究室大戦 第一章


結局私の予想どうり実験はうまくいかなかった。
この時点で12月1日、すでに私の予定を1ヶ月遅れていて、
1月末まで残り2ヶ月かなり時間がない。

私はここはあきらめて当初私がやろうとした実験を行なおうとするが、
奴は認めなくてなんとしても自分の思ったとおりの実験をさせようとする。

そしてまた、うまくいきそうにない実験を考えて私にやれという、
その実験の内容がうまくいって10日くらいで、それも成功するかどうかすらわからない状態。 失敗したら12月いっぱいぐらいまで実験をすることになる。
どちらにしても多くて1ヶ月半しか時間がないことになる。

ただ、今度の実験は1日予備実験を行なってある物質が作れれば、 やる価値はある物なのでとりあえず実験をやることにした。


実験に使う物質を作るために夕方から始めてそのまま夜の間、 放置して反応させて次の日に状態を見ると あまりうまくいってなかった。

このままではどうにもならない、
でもただ実験やってだめでした、 といっても奴が納得するわけがない。

そこで、この物質に近い物を作っている学生実験の技術職員の人に意見を聞きに行く。
その人曰く、
「そんなことできるの?
この物質は定性実験ようにただ作るだけでも結構大変なのに、
定量するように生成量をコントロールして、
さらに生成している物質までコントロールしようなんてそれは無理だよ。」

といわれた。
私もやっぱりそうですよね、と相づちをうちながらもとにかく よい方法がないかを聞くと、
アルカリ性にするとうまく行くかもしれないけど、多分だめだよと言われた。

研究室に戻ってさっそく、いろいろなアルカリ性の濃度で反応させてみる。
かなり強アルカリにすると反応速度がとても早くなりうまくいきそうだったが、 やっぱり予定の物は作れなかった。

これだけやればいいだろうと思い、
作った物(50mlビーカーに入った液体)をもって奴に見せに行く。

前に書いたように奴は実験が失敗するのその理由を問わず機嫌が悪くなる、
当然このときも機嫌が悪かった。
とにかく、実験の結果を現物を見せながら度のような条件で行なっていったかを説明する。

私としてはもうこの実験に見こみはないと見切りをつけていたので、
なんとか奴を説得してこの実験をあきらめさせなければいけなかった。


そこで奴に技術職員の人の話をする、
奴は実験を失敗したときはとにかくどこかに落ち度がないかとあら探しをして、
とにかく小さい物でも関係ない物でもいいから、 あらを見つけてそこを責めて失敗したのは自分のせいではなく、お前のミスのせいだと怒る、
すなわち落ち度を見つけて自分の思い通りに行かなかった不満をぶつけたいだけ、
だからこちらはできるだけあらがないように細心の注意を払って奴に話をする。

今回は実験には全くミスがなく怒るところがない、
でも実験が思い通りに行かなくて機嫌は悪い、
そこで私が話した技術職員の人に当たることにしたようだった。

私が技術職員の人が無理そうだといっていたという話をすると、
奴は怒り出した。

「彼は技術職員で教授でもなんでもないんだ、
彼は別に研究をしているわけでもないし、
彼がこの研究のことがわかるとは思えない。」

そしてその人に電話して直接怒った。内容は、

お前は何を言ってくれてるんだ!
お前が俺の実験の何がわかるんだ!
それともお前は俺より研究の事を知ってるとでもいうのか?
適当なことをぬかして俺の奴隷に余計な知識を与えるな!
お前は学生実験のことだけ考えていればいいんだ!


というようなもの。(一応本当の言い方は気持ち柔らかくなっている)

最悪の状態だ、
私は本当にただ技術職員の人がそういうような話もしていたなー、
というように軽く話しただけで、参考意見としてそんな話をしている人もいる けど、この実験はうまく行くもんですかね?
と私の意見として聞いただけなのに・・・、
奴があのように言うと技術職員の人は私をこう思うだろう、

あいつわざわざ教えてやったのに、なんで俺が怒られなければいけないんだよ!
適当なことをいいやがって!
俺は奴の研究のこととかなど何もいってないのに、俺が奴の研究や考えを否定したことに しやがって!
ふざけるなあのやろう!
もう教えてやるか、俺の前に二度と顔を出すな!


私も被害者なんだよーーー。(T_T)
奴のおかげで私は技術職員の人にもう会うこともできない、
なんでこんな目にあわなければいけないんだ。


だが強制収容所ではよくある話で、
このほかにも実験で使う試薬を大学内にあるセンターに頼むのだが、
ここでいつも問題が起こる。

実験で使う試薬というのは、ほとんどが毒物か劇物で買うには資格が要る。
当然販売する方も責任があるので資格がある人にしか販売しない、
この資格というのは化学系の大学を卒業していれば、卒業証書を持っていけばいいのだが、
そんな物を持っていくのは面倒だし、学部のときにはそれはない。
それにセンターとしては研究室の責任者の承認が必要で、 そのために責任者のハンコをもってくれば売ってくれる。

普通の人は責任者からハンコを借りてきて、それで用紙にハンコを押して試薬をもらっていく。
でもうちは研究室ではなく、強制収容所なのでそうはいかない。

奴はあとでハンコを押すから先に試薬をもらってこい、
ちゃんと話がそういう風についているから大丈夫だという。

で、試薬をもらいにいくと、
センターの人がハンコがなければ渡せませんよ、という。

まあ、私がセンターの人でも渡さないよ。
だって渡してなにか問題が起きたらその人の責任問題になる、
その人自身じゃないとしてもセンターの問題にはなる。
どこの誰かも知らない(まあ収容所はこの問題のおかげで有名で、 M教授の研究生といえばセンターの人なら誰でもわかる、でも学生は毎年変わるし、 信用できる奴かどうかもわからない)人を信用してバカを見るのは誰でも嫌だろう。

どう考えてもセンターの人の方が正しい、
こう言われたら、「やっぱりそうですよね」といって引き下がるしかない。
だが強制収容所ではそうはいかない。


私が右も左もわからない強制収容所に収監されてまもない頃(4年の5月ぐらい)、
奴に言われてセンターに試薬を取りにいった。

そしてセンターの人が渡せないといったので、
戻ってきて、ハンコがないとだめですと言われたというと、
そんなはずはない(ちなみにこれは奴の口癖、何かにつけてよく言う、実験が失敗したとき 、いいデータがとれなかった時など)もう1度いって来いといった。

いっても無理だろうと思ったが、奴が言って来いというのだからしかたがない、
重い足取りでもう1度行く。

当然、「だからだめですといってるでしょう」といわれる、
「そこをなんとか」と一応食い下がってみるが、もちろんだめ。

また戻ってきて奴にやっぱりだめでしたというと奴は、
「なんでだめなんだ!」といいだした。

えっ、逆切れなの?
怒られているのは誰?
私なの?
なぜ?
と思っていると、

どうやら私に怒っていたのではなく、センターの人に怒っていたようで、 奴が電話をしだした。
その内容はすさまじいものだった。

奴「なんで渡さないんだ!」

センター「こちらとしてはハンコがないと渡せませんよ」
(相手の声は私には聞こえないから何を言ってるのかわからないので、 私の推測で)

奴「だから、あとからハンコをまとめて押しに行くといっているだろう!」
(奴は面倒だから、ある程度たまったら1ヶ月単位ぐらいでハンコを押すことにしている)

センター「それじゃあ問題が起きたときにこっちの責任になって困るんですよ」
(まさに正論、これを言われたら誰も文句を言えない、でも奴は別)

奴「なんで問題が起きるんだ!」

センター「何でといわれても・・・」

奴「それは、僕が信用できないと言うことなのか?」

センター「先生が信用できる、できないの問題ではなく、規則が・・・」

奴「そんなに僕が信用できないというのか?
もういい、君じゃあ話にならないAさんを出せ」
(このときは知らなかったが、このAさんというのがセンターで一番えらい人)

奴「Aさんか?なぜ試薬を渡さないだ!
どうなってる!」
(どうもなにも、君が無茶を言ってるだけだよ)

しばらくAさんに怒鳴りながら話をして、奴が電話を切った。
(ちなみに電話の奴の言葉はいっさい編集なしです)

そして私に言った、
「話はついた、試薬をもらって来い」

勘弁してくれ、なぜこんなことになってしまったんだ、
この状態でもらいに行けというのか?
話がついた?
それは本当か?
無理やり話をつけたんじゃないのか?
話したというか、お前が一方的にいちゃもんをつけただけだろう。

とても嫌だったが、行けといわれれば行かないわけにはいかない。
仕方なくセンターに行く。

当たり前だが、雰囲気はとても重く最悪だった。
3回目で私がM教授の使いであることはセンターの人全員にばれていた。

もう私がなんの用事で来ているか相手もわかっているだろうが、
一応「試薬を取りに来たんですけど」というと、
センターの全員の冷たい視線が私に集まる、
彼らのアイコンタクトが

「お前か、うち(センター)にいちゃもんをつけた奴は!
さんざん好き放題いいやがって!
お前の都合でこっちの規則を破らせるなよ、ボケ!」


といっているのが、
私がこのセンターで10年以上彼らと一緒に働いていたかのように簡単にわかった。

全部奴のせいだ、奴のせいで私まで恨まれる、最悪の環境だ。
センターの人が試薬を渡したりするのがすごく冷たく、
さっさと出ていけ!と心の中で思っているのはあきらかだった。

渡すときも、
「ハンコは あとで 押すんですよね」
とわかっているのにあえて言われた。
私は試薬をもらってそそくさとその場を立ち去った。

そしてこれ以降、試薬をもらいに行くときは、
とにかくなんとしても試薬をもらうようにしていた。
(もちろん試薬をできるだけもらいに行かないようにもしていたが、
だれもが嫌がるので行かなければいけないこともよくある)


しかし問題が起きてしまった。
大学院生になってからは、学部生がいるので全部学部生に頼んでいた。
1度インパクトのあることをしている(勝手にされたのだが)ので、 面が割れていて行きづらいしね。
しかしこのときは自分が使う試薬で、自分で取りに行くしかなかった。
1年くらい行ってないから忘れているだろうということで安心してセンターに行った。
これが問題だった。

センターはAさんが50過ぎぐらいで、あとは20歳代の数人と30前半が1,2人なので 比較的若い人で構成されている。

私の期待通りに彼らは私のことを忘れてくれていた、
そして私が見たことない人が応対をしてくれた。

私が試薬をとりに来たというと、
彼はハンコが要るといった。

私があとで教授が押しに来るから渡してくれというと、
それではだめだという。

このとき運悪くAさんがいなく、
さらにちょうどお昼休みになり他の人も 私と彼の話を聞くことなく出ていってしまった。
もし彼らが私のことを忘れていなかったら事件は起きなかっただろう。


私はとにかくM教授の使いだからくれというが、
相手もだめの一点張り。

新人め、お前のためを思って無理を承知で私が頼んでいるんだぞ、
本来ならお前が私がなにも言わなくても、

「M教授の使いのひとですね、
すぐに持ってきますからちょっとお待ちください。
渡しますから帰らないでくださいよ」
とでも言うくらいなのに、
新人の教育がなってねーよ!
このセンターでやっていく上で最も重要なことだろう、ちゃんと教えておけよ!

だがここでセンターの教育不足を責めたところでどうにもならない。

とにかく渡しておいた方がいいよと諭すが、 新人君は
「だめなものはだめだ」
と若気の至り全開で全く聞き入れるつもりがないらしかった。


しょうがないので、
「渡さないとあとでとんでもないことになるよ」
とちょっと脅しめで話す、
私はこんなことはしたくないのだが、彼のためにやるしかなかった。

こんなことまでやらされるのが強制収容所、
なんとか最後の切り札を使ったつもりだったのだが逆効果だった。

「なんですかそれは?脅してるんですか!
だめだっていってるでしょう!
帰ってください!」

まあ普通の人の正常な反応ともいえるのだが、
それにしても店員なんだし、もうすこし気を長く持ってほしいものだ。

彼にしてみれば私がこんな風に思っているなどとは寝耳に水だろうが、
私は彼のために嫌われるだろうな、と思いながらもわざわざいっているつもりなので、
彼に怒られてまで頑張る気にはなれない。

私はあきらめてもどった。
ただこのままならとくに問題は起こらないはずだったのだが、 悪いことは重なるものだ。


私は昼休みが終わってAさんがもどってくるか、すくなくとも他の人なら M教授の使いだといえば渡してくれるだろうと思い、しばらく待つつもりでいた。

だがタイミング悪く奴にあってしまい、試薬はどうした?
と聞かれてしまった。

普通の状態なら
「もらってきました」
と嘘をついておいてあとでもらってくるという頭が働くのだが、
センターの新人君のおかげで私も少し機嫌が悪かった。

そしてつい
「もらえませんでした」
といってしまった。
言ってすぐにしまったと思ったが時すでに遅しだった。

「なんだと?またか!
わからない奴らだな!」


たぶん私が知らないところで、何度か大きくはないが奴とセンターの間で トラブルがあったのだろう。

奴はすぐに電話をかけに自分の部屋に戻っていく、
私は当事者なので奴について奴の部屋にいった。
そしてまた聞いてしまった。

奴「どうして渡さない!」
「僕がハンコをあとで押すといっているだろう!」
「僕が信用できないのか!」


まえと同じようなことを言っていて、すごくまずいだろうなと思ったが、
事態は私が思っているよりもっと悪かった。

電話の相手は新人君のようで、さらにまわりにまだ誰も戻ってきていないようだった。
彼の怒鳴り声がこだまする。

奴「だから君じゃなくてAさんを出せ!」
「いないなら他の人でいいから出せ!」
「君は誰なんだ、私のことを知らないのか!」
「とにかくあとでハンコはちゃんと押すから試薬を渡せ!」
「規則はわかっているんだよ!でも私はいつもそうしているから大丈夫だ!」


奴がどんどん不機嫌になっていく、怒鳴るくらいならハンコを私に貸せばいいのに。
奴が怒鳴るほど私がもらいにいくときにいやな顔をされる。
「そんなに俺が信用できないのか!」
というんだったら、
お前こそ私を信用してハンコを渡せよ!
そんなに私が信用できないのか!

といってやりたくなる。

もちろんハンコをもらったら、すぐに適当な紙にハンを押してそれをハンコ屋に持っていって 複製して悪用してやるけどね。(こんなんだから渡せないのかな)

結局、奴は最後には、

「そんなにハンコが必要なら僕のところに書類を持って来い!
そしたら押してやる!」


と罵倒して電話をたたきつけて切った。

あ、あ、とんでもないことになってしまった。
なぜ?なぜなの?私が何か悪い事をしたの?
完全に奴は切れてるし、とてもこっちからとりにいける状態じゃあなくなってしまった。
ある程度は予想していたが、ここまではまったく予想もしなかった、
最悪の状況になってしまった。
新人君はどうするつもりなんだろう?
それよりも私はこの状況で何をすればいいのだろう?

私が目の前で起こった光景が信じられなくて呆然としていると奴が
まだいたのか?もういいぞ
といった。

なにがどういいのかわからないが、とにかくこの場から逃げ出したかったので、 さっさと奴の部屋から出ていく。
30分後ぐらいに偶然、奴の部屋に入っていく人を見た。
それは新人君とAさんだった。

私のうっかりした失言が引き金ということもあるので、奴の部屋のドア越しに 聞き耳を立てた。

話しは奴がひたすら怒り、センターの人がひたすら平謝りといったもの。
詳しい内容はセンターの人がかわいそうで書けません。

このときはセンターの人が謝りついでに試薬をもって来たので私がとりにいかずにすんだ。



文章がすごく長くなってしまったので、とりあえずここでひとくぎり。
本来書くはずだった内容の10%ぐらいしか書かず、あとは全く関係ないことを だらだらと書いてしまった。

センターの新人君との話は3ヶ月くらい前の話で、
書こうと思っていたのだが忙しくていつのまにか忘れていた。
(こんな事件、強制収容所ではめずらしくもない)

ただ12月に修論を書いたりしているときにコピーをよくしていて、
強制収容所のあるバベルの塔の1階にセンターも移転してきていて、 コピー機がセンターにあり、近いので半月ぐらい毎日通っていて、 ふとあることに気づき思い出した。

そういえばあの新人君見かけないな

私は毎日通っているのでいないはずはないのだが・・・、
このセンターは大学の関連ではあるが完全に独立していて他に店舗などがあるわけではない、

なぜだろう?
アルバイトだったのかな?
もしかすると有給休暇か病気で長期間休んでるのかな?
それとも低い確率だけどたまたま偶然、私がいくときにいないだけかな?

まさか辞め・・・、いやそんなはずはない!

まあ、あまり深く考えることはよくないな、
とりあえずなかったことにしておこう。