第二次研究室大戦 第二章
第一章のあらすじ
実験が失敗に終わって奴にそれを報告して、技術職員の人の話をして
奴が技術職員の人に電話でひたすら怒ってきった。
だが奴の怒りはこれぐらいではおさまらなかった。
奴はさらに私にも食って掛かってきた、
「だいたいなんでお前はあいつの話を聞くんだ!」
「お前は誰と研究をしているんだ!」
「あいつの意見を聞くなら、あいつと研究しろ!」
奴が勝手にキレ出すともうどうにもとまらない。
こんなときは台風がすぎるのを待つしかない。
奴の話をいっさい聞かないために別なことを考える。
今、私の前に悪霊にとりつかれた人がいる、
(偽)善者の私としてはなんとか彼を助けてあげなければ。
幸いなことに私は聖水を3つ持っていた。
1つは、普通の聖水で1M硫化水素溶液、
こんな程度のものでは匂いがちょっとキツイだけで、とうてい彼にとりついている悪霊など祓えそうにない。
1つは、普通の聖水にさらに、少量の水酸化ナトリウムを加えて0.5モル濃度にして威力をあげてはいるが、これでも
まだ祓えそうにない。
最後の1つは普通の聖水にさらに、過剰の水酸化ナトリウムを加えて5モル濃度という最高濃度に近いもので、
これならなんとか彼にとりついている悪霊を祓うことができよう。
ただちょっと威力がありすぎて、人体に影響を及ぼすかもしれないが、
それこそが本来の目的・・・、
じゃなかった、このまま悪霊にとりつかれていては彼の命に関わるから多少の犠牲はしかたがない。
だがまだ問題はある、
この聖水の入っているビンがビーカーであるため、普通にオーバーハンドスローで
投げつけては、せっかくの聖水がかからない、これでは意味がない。
まあこれはサイドスローでビーカーを横に回転させて投げればちゃんと聖水がかかるだろう、
ビンをたたきつけてそれによるダメージも加えて悪霊を追い祓いたいところだが、
ここは聖水の威力に期待しよう。
ただ彼は防具としてメガネをかけている、サイドスローではメガネを割るほどの
スピードでは投げられない、
これでは聖水が直接目に入ることがなく、彼を失明させれ・・・、
いやもとい、彼から悪霊を追い祓うことができない。
どうすればいい?
ここは(失明を)あきらめて、彼の頭にかかるように投げて、
彼の一番気にしている髪が薄いのを、もうそんなことを気にしなくてもよくしてあげ・・・、
違う、違う、頭から聖水をかけて全身にまんべんなくかかるようにするしかない。
こんなことを考えている間も奴のくだらない見当違いの説教は続いていた。
私の手は中に入っている溶液をこぼしそうなくらいカタカタと振るえて今にも、
悪霊退散ーーー!
と叫んでビーカーをぶつけたあと、
奴がひるんでいるところに、
もう1つのビーカーの溶液を目を無理やりこじ開けて目薬としてさしてやり、
よれよれになったところに、
クロマトに使うシリンジ(注射器)を持って来て、最後の溶液を皮下注射した後、
倒れている奴を無理やり引きずってきて、クロマトのポンプを使って、
そんなに実験がすきなら貴様が実験体になれーーー!
といって奴に溶離液を点滴して、
心電図の信号をレコーダーに記録して、ピークがちゃんと測定できるように
フラットにベースラインが安定するまで流して
やりそうになるのをなんとかこらえていた。
自分でいうのもなんだが、たいした忍耐力といえよう、いやすごいね。
3年間の強制収容所での生活で学んだことで唯一の役に立つことだが、
社会人になる上で最も重要なことかもしれない。
(でもこんな強制収容所に収容されて、3年間で300万くらい払ってまで学ばなくても、
社会に出れば嫌でも学ぶことになる)
奴の意味のない勝手な思いこみの話は1時間にもおよんだ。
そして最後に、また成功の見込みのなさそうな実験をやれといった。
私もつかれていて、もう早くこの場を離れたかったので適当に返事をして、やっと解放された。
そして自国に戻ってきてよくよく考えると、少なくともうまくいってあと2週間、失敗したら
別のことをやることも考えると12月中ぐらいかかることに気づいた。
いつもならその場で気づいて、これをやるにはこのくらい時間がかかりますからという
目安をいう、
そうすると奴がなんでそんなに時間がかかるんだというので、
細かく1つの実験にかかる時間から1日に取れるデータの量を計算し、
それからトータルこのぐらいの時間がかかるんだと説明して、
奴が納得すればそのままだし、だいたいは
そんなに時間がかかるならこの部分は削ろうと奴が言い出すので、
それで実験の量を減らしていた。
今回は警察の取り調べのように、同じことを言われていたので、
つい自白してしまった。
本来なら脅迫のようなこんな状況での自白は無効なのだが、
奴の国では、奴の言うことが絶対になるので、いまさら白紙撤回などできないし、
させてもらえるわけがない。
いつもならこんな状態になったら、
気づかなかった自分が悪いということでしょうがないので実験をするのだが、
今回はそうは言ってられない。
というのも前に書いたように、修士論文、修士論文発表、
奴が論文を作るために必要なだけの修士論文の実験データをすべてまとめるには
2ヶ月は必要。
奴は1月末で留学でいなくなるので、実験が終わった時点で1ヶ月くらいしかない。
2ヶ月近くかかる物を半分の時間でできるわけがない。
もちろん奴も時間的にもうあまりないことには気づいている。
だから実験をやりながらデータを整理したり、論文の文章などを書いておけという。
そんな時間あるかボケーーー!
実験中はもちろんそんな時間はないし、実験が終わったあとはその日の実験データ整理があり、
あとはつかれてそんなことをやる気にはならし、
やったとしても1日数時間ではほとんど進まない。
そしてなんといっても、別にいままで遊んでいたわけではないので、
なんでこんなにやって急いで実験をしていたのに、
奴の狂った考えで今まで以上にやらなければいけないんだ?
という考えが、すごく強く私の中にある。
このように考えると、最終的にある結論に達した。
私は就職は家が会社をしているのでそこに就職するから、
3月に卒業できなくても全く困らない。
もし大学院の卒業を半年遅らせて、修論はすぐに終わるからあとは卒業まで
3ヶ月くらい遊んで暮らすことができるからこっちの方が楽。
むしろ3月で卒業するとたいして時間がないから、なんならこっちの方が全然いいじゃん!
(こんな風に考えるほどせっぱ詰まっていて、ちょっと狂い始めてもいた)
ということで、すぐに奴の部屋へでむくことにした。