研究室物語 (最終話)


8月23日 午前9時
  荷物の片付けもほとんど終わり、今度は実験が早くできるように 水の確保をしろといわれる。

  この水の確保とは前にも書いたと思うけど、実験では蒸留水、再蒸留水、 イオン交換水を使うのでこれらの機械を動かしてちゃんとした水が取れるかを 確認するということ。

  この日は奴は大学院の入試があり朝からいなかった、
当然誰もやる気など全くなく、適当にものを片付けたりしていた。
でもさすがに水の確保だけはしておかないと、なにもやっていないことがばれるので、 11時くらいから接続を始める。

  本当ならこんなことは4年生にでもまかせて、
(もう1人の大学院生は、私の中では数に入っていない)
お気楽に休んでいればいいのだが(それもどうかと思うが、何事も経験だからね)
残念ながらそうはいかない。

以前からそうなのだろうけど、とにかくこのごろの学生の能力はかなり落ちている。
たぶんピークは大学の受験生が最も多かった92年度で、そこからは落ちていく一方だろう、
それに輪をかけて大学が卒業単位を大幅に減らしたりしているので、いっそうおち方が早い。

ただそれにしても、私が4年生のときは実験などをやるという点においては、 まだまだ十分な能力を持っていて自分で考えて実験をちゃんとできる人が ほとんどだった。(一部を除いてね)

実験をやるということは、奴は抽象的な表現方法しかしなく、
あとは「とにかくやれ!」の一点張りなので、自分で考えて実験内容を理解して 進めていくということで、これには機械を自分で接続したり、修理したりする ことも含まれている。
だから自分で機械を修理したり、接続するのは当たり前といえるのだが、 今の学生にはそれはできない。

  これはたぶん機械の構造や原理を理解していないからだろう。
(理解できない、理解しようとしないからかもしれない)
だから壊れたときにどこを見たらいいとかが全くわからない、
接続するときも構造と原理から考えて、こうつながなくてはいけないというのが わからない。

  理系の学生にとってはこれは致命傷といえる、
そしてこの能力の低下は、私の次の代(いまの私の下の大学院生) でいっきにすごくおちて、今の代でもそんなに変わらない、
おそらくこのまま落ちていく一方なのだろう。
でもまあうちのような3流大学では卒業しても化学に関係ない仕事に つく人の方が圧倒的に多いから別にいいのかもね。
4流大学だからいっそう能力のおちこみが激しいのだろうしね。

ついでにいうと私大は今後すごいことになるみたいだ、
いまや予備校などでは合格判定にA,B,C,D,EのほかにFランクというものが存在する。
Eランクは合確率10%以下で志望校の変更を検討されたし、というもの
ではFランクはというと・・・、

F=free この大学は定員割れで、受験者全員が合格します、というものだそうです。

まあ、少し前からこういう大学があり、今後増えていくなとは思っていたけど今や、
全私立大学の23%ぐらいがFランクになっているらしい、
誰でも大学生になれる時代を早くも迎えた、
この分だと私の大学も5年から10年の間にFランクになるでしょう。
たいした授業もないし、私にしてみれば化学の授業は、だれでもAがとれるような かなりレベルの低い授業、ましてやCなら授業に出なくても ノートさえ見せてもらえれば絶対にとれる、
さらに奴のような狂った教授が平然といる。
さすが5流大学!といったところでしょう。

私としては、この5流大学卒、ましてやこの10流大学院卒という経歴は抹消したい ところなので一日も早くつぶれてほしいものだ。
今のところは大卒、大学院卒ということで、大学名は絶対に言わないようにしている。


  まあこんなわけで接続については私がすべて行わなければならない。
排水チューブや給水チューブなどを接続する、
さらにスタビライザー(電圧安定機)を電源と蒸留機の間につける。

そして電源を入れるとちゃんと動いた、
やっと終わった、あとは適当に時間を潰そうと思っていると、
スタビライザーから緊急信号なのか、狼煙がもくもくあがりはじめていた。
とにかく即座に電源からコンセントを抜く。

少し様子を見てから、スタビライザーを別の物に変えて電源をつけると今度もちゃんと動いた、
そのまま1分間ぐらい見ていてもなにも起きなかったので、 ドライバーなどの器具を片付けていると、
今度は電源の方から狼煙がではじめて、 さらにスタビライザーもそれに呼応するかのように狼煙を上げ始めた。
すぐに電源を抜く、いや正確には抜かせた。

狼煙があがったのでコンセントを抜きたいのだが、今回は電源からも煙が出ててすごく危なそう、
こんなときは慌てずあせらずに、

1.すぐに周りを確認する。

幸いすぐ近くには人がいなかったので、
頭の切れる人だとこのまますぐ自分で処理して、 何もなかったことにしてしまうのだろうが、
残念ながら私は頭が切れるだけではなく、冷静で危機回避能力が非常に高い。
したがってただ処理をするということはしない。

蒸留機は台の上においてあるので、

2.おもむろにかがみこんで蒸留機が自分からは見えないようにする。

これで準備完了、あとは・・・、

3.人を呼ぶ

「HO君(私の1つ下の大学院生)ちょっとすぐに来て!」

この人をよぶときも本当なら誰か来てくれといってもよいのだが、
中途半端に頭のいい奴が来るとためらって抜かないか、抜くのに時間をかけてしまう。

事態は一刻を争うので(だったら自分で抜けよ)できるだけなにも考えない、
いわゆるバカな奴、注意力散漫な奴、思考能力ゼロの奴、緊急時に冷静さを失う奴が 呼ぶのには適している、
(あんな緊急時にここまで考えているなんて、我ながらさすがだと思うね)
これらの条件にすべてあてはまるのがHO君だった、
というか彼はこういうときのためにいるといってもいいだろう。


なにも知らずに、かわいい子羊(生贄)がやってくる、
来るなり彼が、
「先輩、機械が煙ふいてますよ!」
といった。

『そりゃふいているだろう、さっきから出てるし、むしろ出てなかったら驚くね』 と心の中で思い、さらに
『そのために君を呼んだんだ、私に聞くまでもなく抜いてくれればいいのに、 でもそんなに思考能力がある奴ならむしろ抜かなくなるかもしれないからな、 しょうがない・・・』

「やばいじゃん、HO君電源を早く抜いて!」
今知って驚いた声でこういう(この演技力、俳優でも目指せばよかったかな)

さすが私が見込んだだけはある子羊、何のためらいもなく抜こうとする。
ただこのときに本当にこれでいいのか?
という疑問が私の中に生まれた。

これで彼がけがをしたりしたら、私のせいでけがをしたことになる。
やっぱりこれは私の責任だから私が抜くべきじゃないのか?
私の失敗を彼に尻拭いしてもらうわけにはいかない!
ましてや、けがなどさせられるわけがない!

彼にこう言う、

nabe「HO君、ちょっとまって!、あぶないから私が抜こう!」

なにが起こったのかわからず、呆然とする彼にさらに、

nabe「あぶないから、さがって!」

といい、すぐにコンセントを抜く、
コードの部分もかなり熱くなっていて、さらに帯電していて私に電気が流れる、
一度は熱さと痺れで離してしまったが再び抜きにかかる。
今度はなんとか耐えることができ、コンセントを抜くことができた。

右手にはコードの形に火傷の跡がついていた。
私はすぐに水道水で右手を冷やす、そこへ彼が来て声をかける。
HO君「先輩、大丈夫ですか!」
右手は結構痛かったが彼に心配してもらうわけにはいかないので私は、
nabe「全然大丈夫、ちょっと熱かったから冷やしてるだけ」
とこたえる。
それでも彼は心配そうに私を見ているので、私は耐えきれなくなり本当のことを言うことにした。

nabe「HO君、そんなに心配しないでくれ、これは自分のミスなんだから。
それに私は君に謝らなければいけない。
実は煙が出ていたことは知っていたんだ」
HO君はちょっと驚いた顔をした、私はかまわずに続ける。

nabe「煙が出ていて自分で抜いたらけがをするかもしれないと思い、
君なら何にも考えずに抜いてくれるだろうと思って呼んだんだ、
本当にすまないHO君」

しばらく気まずい沈黙が流れる、そしてHO君の声が沈黙をやぶった。
HO君「僕も先輩に謝らなければいけないことがあるんです、
実は僕しってました、ちょうど先輩が周りを見渡しているときに 煙が出ていて先輩が困っているのが見えたんです。
でもなんか危なそうだったから、見なかったことにしようと思いました。
そこに先輩から来てと声をかけられて内心やだなと思いました。

でもよく考えたら本当は自分がこんなことはできなければいけないのに、
その能力がないから先輩にすべて押しつけて、
しかも先輩が一生懸命 やっているときに、少しでもお手伝いをしなければいけないのに、 僕は後輩の4年生と座ってしゃべってました。
本来なら僕が先輩のそばにいて、すぐにコンセントを抜かなければいけなかったんです!
それなのに僕は、しゃべっていて・・・、

だから先輩は悪くないです!
先輩にそんなことを考えなければいけないような状況を作った僕が悪いんです!

それなのに先輩は、こんな自分をかばってコンセントを抜いてけがまでされて・・・、
本当にすいませんでした!


nabe「HO君、そんなことはないよ、どんな状況であれ、あんな事を考えた私が悪いんだよ!」
HO君「僕が、僕が悪いんです!」
nabe「そんなことは・・・、」

「違います、僕達が悪いんです」

気がつくといつのまにかHO君の後輩の4年生が集まっていた。

HO君の後輩一同「悪いのはHOさんだけじゃなく、僕達全員が悪いんです!」

HO君の後輩一同「nabeさん、僕たち全員HOさんと同じ気持ちです!」
nabe「こんな私を許してくれるのか?」
HO君の後輩一同「許すなんてとんでもない、僕達のほうこそ許してもらいたいです」
nabe「お前たち・・・」

全員が目にうっすらと涙を浮かべながら抱き合う、
HO君はnabeと1年4ヶ月、後輩とは4ヶ月一緒の研究室にいて、
はじめて全員が1つになった瞬間だった。


これからも彼らには幾多の苦難が待ちうけているだろうが、
1つになった彼らにとっては、それらは何ら障害になることはないだろう。







バックミュージックは金八先生のエンディングテーマ「贈る言葉」(海援隊)が流れる。








STAFF



脚本

nabe




出演者

HO君(HO君)



nabe(HO君の先輩)



HO君の後輩一同(M教授研のみなさん)




施設提供

○○大学M教授


17号館第9研究室(17-509)
M教授研究室







  などということが起こるわけもない、
なんとなく青春ドラマ風に書いて見たくなったので書いてみた。
だから特になんら意味はないです、別にこんな風になったらいいなという願望でもないので あしからず。

でも全部作ったわけじゃないので違っている部分を(ほとんどだけど)修正して 事実を書くことにしよう。


なにも知らずに、かわいい子羊(生贄)がやってくる、
来るなり彼が、
「先輩、機械が煙ふいてますよ!」
といった。

『そりゃふいているだろう、さっきから出てるし、むしろ出てなかったら驚くね』 と心の中で思い、さらに
『そのために君を呼んだんだ、私に聞くまでもなく抜いてくれればいいのに、 でもそんなに思考能力がある奴ならむしろ抜かなくなるかもしれないからな、 しょうがない・・・』

「やばいじゃん、HO君電源を早く抜いて!」
今知って驚いた声でこういう(この演技力、俳優でも目指せばよかったかな)

さすが私が見込んだだけはある子羊、何のためらいもなく抜こうとする。
ただこのときに本当にこれでいいのか?
という疑問が私の中に生まれた。


ここまでは全部事実、まあ普段通りの私の行動だしね。


これで彼がけがをしたりしたら、私のせいでけがをしたことになる。
やっぱりこれは私の責任だから私が抜くべきじゃないのか?
私の失敗を彼に尻拭いしてもらうわけにはいかない!
ましてや、げがなどさせられるわけがない!

もちろん私がこんなことを思うわけがない、
私の中で生まれた、本当にこれでいいのか?
という疑問は、

これで彼がけがをしたりしたら、私のせいでけがをしたことになる。
これで彼がけがをしたりしたら、誰のせいになる?

やっぱりこれは私の責任だから私が抜くべきじゃないのか?
一応これは私が起こしたことにはなるが、 私はその事実(煙が出ていること)を知らなかったことになっている(知らなかったと言い張る)、
とすると裁判になったとしても私の責任にはならないはずだ。


私の失敗を彼に尻拭いしてもらうわけにはいかない!
私の責任じゃないからどうでもいいね、
いや、今はそれよりもこれが誰の責任になるのかを考えなければ、
私は間接的に関わっただけで証言をさせられるだけだ、
いいかえればたまたま私がいじっていた機械で煙が出ただけ、
とすると責任は機械を製造した会社になるのか?
でも製造した会社はマニュアルとかで自分でいじるなとか書いてあるはずだ、
それならその作業を行わせた人の責任になるはず、
それは・・・、奴だ!
奴はこの研究室の責任者でもあるから責任は間違いなく奴に行くはず!
とすると・・・。


ましてや、けがなどさせられるわけがない!
頼むからけがをしてくれ!
死なん程度に大けがをしてくれ!
最悪死んでもかまわんぞ!


彼にこう言う、

nabe「HO君、ちょっとまって!、あぶないから私が抜こう!」
nabe「HO君、危ないから早く抜いて!」

なにが起こったのかわからず、呆然とする彼にさらに、
慌てていて、ためらう彼が

nabe「あぶないから、さがって!」
HO君「だ、大丈夫ですかね?」
大丈夫じゃないだろう、むしろ大丈夫じゃない方がいいんだ!
骨は私が拾ってやる!
もし大けがで生き残ったらたしか内線の救急番号は3999だったかな?
まあいい、とにかくつべこべ言わんとお前はさっさと抜いたらいいんや!

nabe「早く抜(逝)けーーーー!」


といい、すぐにコンセントを抜く、
というと、やっとコンセントを抜いた、

コードの部分もかなり熱くなっていて、さらに帯電していて私に電気が流れる、
一度は熱さと痺れで離してしまったが再び抜きにかかる。
今度はなんとか耐えることができ、コンセントを抜くことができた。
コンセントはあっさり抜ける。

右手にはコードの形に火傷の跡がついていた。
私はすぐに水道水で右手を冷やす、そこへ彼が来て声をかける。
何かけがをしていてくれないか、探そうと近寄ると彼が言った、

HO君「先輩、大丈夫ですか!」
HO君「大丈夫でした」

右手は結構痛かったが彼に心配してもらうわけにはいかないので私は、
nabe「全然大丈夫、ちょっと熱かったから冷やしてるだけ」
とこたえる。
無事でいられると、 奴を失脚させる計画がすべて水泡に帰してしまうので私は、
nabe「本当に大丈夫なの?どっかいたいんじゃないのか?」
と聞いた。

それでも彼は心配そうに私を見ているので、私は耐えきれなくなり本当のことを言うことにした。
そんな私を見て、彼は心配しなくても大丈夫ですという顔をする、
私は本音を言うのを何とかこらえた。

nabe「HO君、そんなに心配しないでくれ、これは自分のミスなんだから。
それに私は君に謝らなければいけない。
実は煙が出ていたことは知っていたんだ」
HO君はちょっと驚いた顔をした、私はかまわずに続ける。

nabe「煙が出ていて自分で抜いたらけがをするかもしれないと思い、
君なら何にも考えずに抜いてくれるだろうと思って呼んだんだ、
本当にすまないHO君」
ちっ!
なぜけがの一つもしてこない?
なぜ気をきかせて自分からけがをしようとしない?
私は君にそんな教育をした覚えはない!
もうお前は私の後輩でも弟子でもなんでもない!
やっぱりお前は使えないな、しょせんその程度か!

いや彼を責めるのはよくないな、彼の能力のなさを見きれなかった私が甘かった、
こんなことなら、
「熱いから水をつけてから触った方がいいよ」
というべきだった、これで通電性もあがりけがをしやすくなったはず、
彼が考えることなくけがをすることができる状況を作れなかった私のミスだ。
私も衰えたものだな、そろそろ引退の時期かな。



この後の文章は当然全部創作です、
まあ結局何事もなく終わってしまった。
奴を失脚させる絶好のチャンスだったのに・・・。

そして壊れた原因を確かめようとしたのだが、今度は電源の方が沈黙してしまった、 テスターで調べても電圧がきていない、
移転してまだ数日なのに早くも電源を1つ壊してしまった、
奴を失脚するどころか、いきなり私の大ピンチに。
やっぱり小細工をいれてコンセントを抜くのが遅れたのがいけなかったんだろうか?

この後これによって大問題が発覚することになる、
そして、私は・・・。


なんか前回と同じような終わりかたになってしまった。
それにしてもこの収容所の移転ネタはいつ終わるんだろう?
いいかげん2ヶ月以上たっている、
本当は今回ので終わりのはずだったんだが、つい余計な事を書いてしまって 、書こうとしているところまで書けなかった。
何とか次で・・・。

ちなみに、今回の題名の研究室物語(最終話)というのは、
私が脚本した部分のことなので、
化学実験日記はまだまだ続きます。