私の1日の実験


  私の実験は1回に2時間半ぐらいかかり、
その間、分刻みまたは秒刻みで動かなければいけないため、トイレに行く時間もない。
このため1回がすごくつかれる。

  そのため、私は朝に9時ぐらいに大学にいき、 大学につくと同時に、最高速で試薬の準備をしてそのまま1回目の測定を行い、
3時間フル稼働でなんとか12時過ぎに実験が終わらせ、
昼を食べたあと午後1時くらいから気合の2連続実験5時間フル稼働で、 だいたい6時半ぐらいに実験が終わる。

  このあと1時間くらいかけて今日の実験データをノートに書き、グラフを書いてそのあと 今日の新聞を読んで7時から8時くらいの間に帰ると言うのが、だいたいの1日の流れとなる。
  これに講義があったり、奴(教授)のところに面会(ディスカッションらしきものをしに)行ったりして、 午前中の実験ができなくなる事があるくらい。


  最近は結構なれてきたのでそんなに問題ないのだが、それでも3回目の実験が終わった時点で集中力は限界が近い。
本当はもう1回くらいやろうと思えば実験をやることもできるのだが、
私の実験は集中力がキレると必ず失敗するので、やっても意味ないのでだいたいこれが限界になる。

  実は実験を1日3回にするのにはもう1つ理由がある。
それは私のすばらしい能力のなせる技で、
私が行う1回の実験は通常の実験方法の2回分にあたる。

  もちろんそんなスピードは、理論上は時間的にありえない事なのだが、
そこはデータがおかしくならないと言う条件で、ちょっとづつ実験条件を 秒単位でいじっていくと、秒単位でいろいろな操作を行うタイムテーブルが できあがり、2倍の速度まで高める事ができる。

  この実験はまじめにやっても1分刻みで動いてやっと1回分(私の1回の半分) できる程度なので、何にも考えずに普通の人がやると本当に大変な実験になる。
(自分でもすごくいい方法が見つかったと思っているので、かなり自信過剰になってるね、
気づいてみれば、基本的に誰でもやろうと思えばやれるんだけど、 実験はかなり忙しくなるので使えるデータがとれるかどうかはその人しだい)

  私の才能による時間圧縮法。
  私はこの前にもいくつか違う実験をやっていたが、
それも同じような圧縮法を使う事により1.5倍から2倍くらいのスピードを出す事ができた。
4年のときに他の人がやっていた実験をやったのだが、すごくペースの遅い(実験自体をやる気がないとも言う)人がいて1日に 2,3回多くて4回で、データはそのまま4回分しか実験をやらない人がいたが、
私がその実験をやったら当然時間圧縮法をおこなって、
無理ないペースで実験5回、データ10回分を取ることができた。

  ちなみにこの実験は測定する機械が壊れている事が、私が実験をはじめて半月足らずで 発覚してとりやめとなった。
(掲示板の渡邉先生シリーズで壊れていた機械で、あのときは一時的な物だったが実際には 測定できないほど壊れていた。
  ちなみに私の前にやっていた人はどうしていたんだろう?
昨日の今日壊れたとは思えないのだが、どう考えてもデータがとれる状況にない。
でもデータは取っていた。どうなっているのだろう?)


  まあ、能ある鷹は爪を隠すとは、よく行ったものでもちろん時間圧縮法については非公認。
奴には一切この事がわからないようにしている。

  やっぱり自分のもてる能力を最大限に生かすのはいいけれど、
それを人に見せるのは絶対にやめた方がいいね。
人に見せるのは70%くらいの力で十分、
あとは余力として残しておかないと、見る人はそれが当たり前だと思いだして、
それにさらに上乗せされたときにすごく大変になるからな。


時間圧縮法を使っているおかげで、私の実験3回というのは、実際には6回分になる。
そして6回やるためには15時間ぐらい必要になる。

  朝9時に来ても全力でやって午前0時にしか終わらない計算になるので、
本当は3回実験をやってしまうとやり過ぎにもなりかねない。

  よって3回やっても実際に奴に提出するデータは5回分とか、
2回しかやらずに(それでも10時間分になるんだけど)
その日は終了と言うこともある。(実際最近は実験を3回やることはほとんどない)
(この日はすごーく楽、本当は終わったらさっさと帰りたいのだが、一応奴が帰るまで いないと実験時間的におかしいので、新聞を読んだり、データの整理をしたりして残りの時間を過ごす)
 まさに楽々至れり尽せりの実験で、私が学部生のときにやっていた実験とは段違いの物だ。
私はこの実験をやり始めたときから、この実験と一生(といっても1年くらいだけど)付き合っていこうと心に決めていた。


 3月のはじめに教授がこんなことを言い出した。
「君に実験は今の状態ではちょっと終わるかわからない、
そこで考えたんだが、S君(私の1つ上の大学院生で3月末で卒業)実験を少し変えてやってみないか?」

絶対いやです!

本当はこのように即答してやりたかったんだが、 一応聞いてみないといけないだろうし、もしかしたら楽になるかもしれないので、とりあえず聞いてやることにした。

ちなみにSさんの実験は前にも書いたかもしれないが、死ぬほど大変で朝9時半に来て準備をして 1回データを取ると12時をすぎている。しかもこれは補正のデータなので実際にとりたいデータではない。

さらに昼を食べた後に実験を再開すると1回データを取るのに50分かかり、それを7,8回とるので 実験が終わるのが早くて午後8時くらい、(しかも実験中はそれなりに忙しくほとんどつきっきり状態)
しかもこの実験は良く調子がおかしくなるので8回やれば 必ず使えるデータが8個取れるという保証は全くなく、失敗したらやりなおすことになる。
 しかもデータをチャート紙という紙にデータを取るので証拠が残るから手抜きは一切できない。
私の実験は証拠が一切残らないのである程度は自己補正(改ざん)をすることができる。

 この実験の後に家に帰ってデータ整理に2,3時間かかるらしいので、帰って食事をして風呂に入り、 データ整理をすると午前2時ぐらいになるらしい。
 そして朝起きて研究室に来て実験をやって帰ってデータ整理、また研究室にくるという、
刑務所でもそんなにきつくないぞ、さすが強制収容所!
と思わず言いたくなるぐらい大変な刑罰だ。
どんな罪を犯すとあんな事をしなくてはいけなくなるのだろう?
そしてなぜあのような状態に耐えることができるのだろう?

前にこの実験の話をしたときに、
以前は1回の実験に1時間かかっていたんだけど、いろいろと時間を削っていって 今の1回50分になったといっていたが、
私の実験は2倍速3倍速が当たり前で、その時間の削減量も1時間単位で削っていくという物なので たいした事ないように思えたが、
実際にはこれを8回行う事になるので80分ぐらい違うからそれなりにはすごい、
でもすでにこれが限界らしいのでこれ以上の改善は望めない。

ちなみにこの実験の1回の実験というのは私の実験の1回の実験で取れるデータで におきかえると、
私の実験は1回で10個ぐらいのデータがとれ、Sさんの実験は1回で1つの データしかとれないので10倍くらい差がある。

すなわち頑張って8回実験をやっても私の1回の実験のデータ分も取れない事になる。
このため実験の進むスピードがすごく遅くなり、
実験の時間の概念が一切存在しない教授は、全力でSさんが実験をしているのに いつもSさんは実験が遅い、遊んでいるのか?などとさえ思われる始末。

まさにいい事なしの最悪の実験だ。


そして奴のたわごとが始まる。
「S君の実験では亜硫酸と硫化物とチオ硫酸という3種類のものを同時に測定できるという 実験をしていたが、ここにさらに硫黄を加えて4種類とれるようにしようと思っている、どうかな?」

おまえアホか?

こういいそうになるのをなんとか抑える。
Sさんの現在の3種類同時に測定するというのも、実際にはA,B,Cという3種類を同時に測定するのに、
Aのみ測定してAを求める。
A+B−(Aのみ)でBを求める
A+B+C−(A+B)でCを求めるという3つの測定が必要になる。
1回の測定は先にのべたとおり、時間がかかる。
当然4種類を同時に測定する場合には4つの測定が必要になる。

ただでさえ大変な実験に、さらに1つ測定を増やしてどうするんだよ!
しかも硫黄というのはいろいろ面倒なもので他の3種類と比べると非常に面倒になる。
Sさんは大学院生になってからこの実験をやり始めて修論発表の1週間前の2月の中旬前ほぼ 2年間近くかかってやったもので、
私の場合、これから就職活動が山ほど入り実験ができなくなり、
悪いけどSさん並に頑張るという事は私には絶対できん。

あと1年もないのに終わるわけないじゃん、おまえ狂ってるよ。

最終的にはもちろん断ったが、あいつはなにを言い出すかわかったもんじゃないから 困るよ。

 4月になると今度は半年後には新しい建物ができてそこに研究室を移すことになり、 今の2つの部屋を1つにするような物だから今のうちから慣れておこうとぬかし始めて、
私が今いる監視がとても甘くて、いつ帰っても基本的にはばれなく、 部屋もそれなりに広くて、ラジオ、CD聞き放題、データ整理、お昼寝用のきれいな机があり、 さらにテレビつきというすばらしい環境の部屋を捨てて、教授の部屋の近くでとても監視が厳しい部屋に来いと いいやがる。

この部屋だけは絶対に譲れない!
私が守って見せる!

 結果としてなんとかいろいろ理由をつけて、あの部屋を追い出されずにすんだ。
ちなみに他の新4年生ともう1人の大学院生は監視態勢が厳しい部屋へ全員収容された。
ということで今部屋は私1人、なんでもやり放題、まさに天国。

しかしそれもこの7月まで、8月には新しくできる建物に引越し、
新しい部屋は教授の部屋と隣り合わせで、さらに部屋同士がドアでつながっていて、 いつ査察があってもおかしくないという、最高の監視態勢。

私の実験は当然見られては行けない物なので、今後は実験をするのも注意を要するようになる。
まあそろそろ修士論文を書くために実験の追いこみをしなければ行けないので、まじめに実験を するだろうからあまり影響はないはずだけど・・・、どうなる2000年の夏。