研究室環境改善委員会


  1999年4月、研究室に委員会が発足した。
  その名も研究室環境改善委員会。
委員会で全研究員の25%がこの委員会のメンバーに所属していて、 会長兼副会長兼書紀兼会計の4年生のHO君が、すべてとりしきっていた。
(ちなみに私の地位は研究室環境改善委員会後援会相談役代理補佐)

  ただ、これまでは週休二日制、午前9時から午後6時までの8時間労働、 時間外労働(夜勤)の禁止などを導入するとかいっていたが、結局何一つ実現するどころか、 実現に向けての行動すら一切おこなわれていなかった。

  時は流れて委員会発足より4ヶ月、ついに委員会の初仕事がおこなわれた。


8月上旬
  去年なら7月の終わりぐらいには、8月の夏休みの話を奴(教授)が2つの プランを提案して私達に選択させていた。

  去年は、8月から9月の下旬の大学がはじまるまでの毎週土曜日を 休みにして、8月はお盆をはさんだ週の1週間を休みとするプランと、
  毎週土曜日は休みではなくなるが、8月の休みを連続2週間にするプランが あった。

  ちなみに夏休み中の土曜日というのは、本来なら大学は休みで入校禁止のはずなのだが 、奴がわざわざ許可願いを出して入れるようにしやがる。
  もちろんこの土曜日は他の研究室は 、化学どころかほとんどすべての学科の研究室が休みで大学にはほとんど人がいない。

  同じ化学科の他の研究室を比較すると、
当然土曜日は休み、
さらに8月の夏休みは 3週間というのが普通だった。

なんで他の研究室よりはるかにキツイのに、そのうえ休みも他の研究室より こんなに短いんだよ!

と、去年の研究員の誰もが、というよりいままでうちの研究室に収容されていた囚人の誰もが 思ったことだろう。
  結局去年は連続2週間の休みになり、本当に2週間で終わりやがった。

  去年は実家が遠い人がいて、お盆とかは交通機関がこむので2日くらいはやめに 休みを取りたいといった人がいたが、奴は
  休みは研究室全体で決めたことなので変えられない、だがどうしても君が早く 休みを取りたいというのなら、そうすればいい。
とかいいやがったらしい。
  ほんとうにむかつく奴だ。まあ、今の私だったら早めに休む、と報告するだけで 、なにもいわさないけど。

  このころは誰もが若かった。奴の意見など聞くだけ無駄ながよくわかっていなかった。
奴はいつも自分は賛成はしないが、どうしてもしたければそうすればいい、 としかいわないのだ。

どうしてもしたいから、そう言ってるに決まってるだろう!
一応の確認のために聞いてるんであって、お前の意見なんか求めてないんだよ!
何年教授やってんだよ、それぐらいわかれ、バカ!



  話がかなりそれてしまったが、
なぜか今年は、ほとんどどちらを選択しても同じであろう、意味のない究極の選択 を奴がいっこうに提案してこなかった。
  今年は日曜日の8月8日から8月15日の1週間は休みが確定していたが、それ以外は全くわかっていない状態が、 8月4日まで続いていた。
  この時点で私と大学院のSさんは今年の休みは1週間だけかな、とおもっていた。


  8月5日、運命の日がやってきた。

  朝、会長が今年の夏休みはどうなるのか、私に聞いてきた。
私 「このぶんだと1週間じゃない?」
  (かなりなげやり)

会長「ホントですか? 1週間じゃ何もできないじゃないですか!」
  (ちょっと興奮気味)

私 「まあ、しょうがないんじゃない。今年は君達(4年生)が就職活動で 実験がほとんど進んでいないから、奴も休ませないだろう」

  普通、就職活動は休みには入らないはずだが、奴は休んだと考える。
さらに例年は就職活動はほとんどみんな6月までに終わっていて、しかも 多くて5,6社しかまわっていないので、全然休まない。
  だが今年は4年生の女性の方が週に2,3日大学に来ていればいいほうで、 1週間まったくこないということもあった。
ちなみにこれにはずる休みも当然含まれている。
  この状態が6月まで続いていた。7月も少しはましになったが、かなり休んでいた。
  こんな状態では私が奴でも休みはチョットあげたくなくなるね。
まあこれがわかっていたから、今年の休みは1週間しかないと思ったんだけど。
  会長としては自分は休んでないのに、いい迷惑だな。
  私は一応、大学院生だから去年2週間が、1週間になっただけなので、 別にたいしたこととは思わないけど。

会長「せめて2週間はほしいですよ」

私 「奴はだいたい休みの話とかをすると、君はどうしたいんだと聞く(奴のお決まりの手)から そのときに2週間休みたいといえばいいんじゃない?」
  (君達の休みが2週間になっても、どうせ大学院生は1週間だからな、勝手にしてちょ)

会長「それでいけますか? もしかしたら3週間とかも休めますかね?」
  (ちょっと希望が出てきて、錯乱気味)

私「それはどうだろう?」
  (お前、2週間でも無理かもしれないのに、それは絶対無理だぞ)

会長「たぶん、いけるんじゃないんですかね?」

私「そ、そうかな?」
  (まあ無理だと思うけど、君達の休みが何日になろうと、私の休みはたぶん1週間だから 関係ないね、どうでもいいや)

会長「どうでしょう?やっぱり無理ですかね?」
  (ちょっと弱気な会長、会長はいつもはじめはかなり強気だが、すぐに弱気になる)


  ここで私は考える。
  よく考えると、彼らの休みがもし3週間になれば、私の休みもうまくすれば3週間とはいかなくても、 2週間ぐらいにはなるんじゃないのか?
  このままなら1週間になりそうだし、私が自分から2週間休むとかは、いえない事はないけど いいにくい。
  ましてや奴が1週間のつもりだったら、また関係が悪化する可能性も・・・。
  なら、会長を使って奴の考えを探り出せるのなら、これはいい。
4年生の休みがどのぐらいになるかで、私が休める期間もそれなりにわりそうだ。
となれば、私がするべきことは・・・


私 「でも、どうせこのままじゃ1週間になるかもしれないし、この1週間は絶対に 休めることは決まっていて、休みとしては最低日数になるから、やるだけやってみた方が いいんじゃない?」
  (態度豹変、路線180℃転換、保守派から改革推進派へ)

会長「そうですね、とりあえずやってみないと、じゃあ2週間っていってみますか!」
  (それでも、まだ少し弱気)

私 「でも、どうせなら3週間っていって、うまく3週間になればそっちの方がとくなんじゃない? どうせ言うという行為を行うのは同じなんだからさー」
  上の文章の訳 : 2週間じゃだめだ! それじゃ私は結局1週間じゃないか! だったら下手に蜂の巣を突っつくような まねなんかしなくていいんだよ! 3週間でいかんかい!

会長「でも、3週間っていって、あいつが怒って1週間とか言い出したらどうします?」
  (私が押せば押すほど弱気になりやがる、なんて弱い会長だ。
  しょうがないな、もー)

私 「まあそういう可能性もあるけど、うまくいったときのみかえりはかなり大きいだろ!  この研究室は大変だし、夏ぐらいは3週間休みたいよな! そうだろ!」
  また上の文章の訳 : 私にとっては君達の休みが1週間でも2週間でも同じなんだよ!  3週間だ! だめでもいいから3週間っていってこい!

会長「3週間ですかー、確かに他の研究室はそれぐらい休むんだからうちの研究室 でもそれぐらい休んでもいいですよね。」
  (やっと乗り気になってきた)

私 「そうだよ、奴に言うときは具体的に数字を言わずに、他の研究室と同じぐらい といえばいい。それで奴が他の研究室はどのくらいなんだと聞いてきたら、そのときは
他の研究室は!
3週間くらいですといえば、自分の意見ではなく他の研究室と比較したことになるだろ?」
またまた上の文章の訳 : とにかく3週間なんだよ! お前の言う言葉はただ1ーーーつ!
3・週・間!
この言葉だけだ! 奴への話し方まで指導してやったんだ、さあいけ! いまいけ!  すぐにいけ!

会長「そうですよね、3週間の休みを勝ち取ってやりますよ」

  こういって会長は奴の所に乗りこんでいった。


  30分後
  会長が意気揚々と戻ってくる。
会長の話によると奴との交渉は次のように進んだらしい。

  奴の部屋に入り、夏休みの話をすると予想どうりにどのくらい休みたいんだ? と聞き返してきた。
(本当に行動パターンわかりやすい奴だ)

  そこでかねてからの予定どうりに他の研究室の話を持ち出す。
でも奴は動じることなく、君達はどれぐらい休みたいんだと効き返してきた。
(3週間に決まってんだろ、それぐらいわかれよ)

  会長はちょっと弱気になりながらも、小声で3週間ぐらいといった。
奴は3週間か?と聞き返し、会長が答えないと3週間なんだなと納得したらしい。

  このあと奴は信じられないことを言い出した。
君達はもっと自分の意見をはっきり言えばいいんだ。別に遠慮をする必要なんかないんだぞ。
  3週間といわず、もっと長くとってもいいんだ。なんなら後期が始まる9月25日くらいまで 休んでもいいんだぞ。
  僕としては3ヶ月ぐらい休ませてもいいんだが、他の研究室との問題もあるし、それで 君達が卒業できなくなっても、僕は責任を取れないからできないんだけどな。

  このような話をして、夏休み3週間は問題ないということになったんだが、最後に 奴がカレンダーを見て3週間だと8月30日からくることになるから、どうせなら8月いっぱいやすみでいいぞ といったらしい。

  こうして4年生の休みは8月いっぱいになった。
  会長は奴の言葉をまに受けて、どうせなら9月25日まで休んじゃってもよかったですかね とかいいだした。
  さすがにわたしもそれはちがうぞ、奴の言いたいことは
お前達が休みたいなら、いくらでも休みたいだけ休め、だが俺はあとのことは しらんぞ。
という、奴お得意の間接的否定法だ。(本当にむかつく奴だ、お前こそはっきり言えよ)


  次の日に私が奴の所にいき、夏休みの話をする。
  奴はやっぱりどのくらい休みたいんだと聞いてくる。
  会長が頑張ってくれたおかげで、私はあっさりと2週間休みたいといえた。
奴も4年生に比べると短いので反対もせず夏休みは2週間になった。
  (あまりにも私の予定どうりに進んで、ちょっと怖いくらいだね)

  次の日せっかく夏休みが長くなったなら、どこかに海外旅行に行きたくなった。
お盆付近は航空券がやたら高いし、今からでは取れないだろうから、いくとなると 13日以降ぐらいになる。せっかくいったんなら1週間以上行きたいので、休みを2週間と 2,3日に伸ばしてもらいにいく。
  このことを言うと、奴はそれなら中途半端だから3週間休んでいいよといった。


  何が奴をこんなふうに変えてしまったのだろう?

  思い当たることは山ほどある。
  去年は4年生が6人いたが、全員が奴と最低1回は衝突、常に奴とは敵対関係にあり、 全く共存し得ない状態だった。
  さらに私に関して言えば、11月に大学院進学を止めるといいだし、 3月には奴に大学院に進学はするけど、大変だったら速攻やめるといい、 6月には奴と交戦状態にまで陥った。
  これらのことに加え、今年の4年生が2人しかこなかったことによる精神的ショック、 4年生との度重なる衝突などが原因だろう。

  まあなんにしても私の休みが増えたことはいいことだ、さらに奴が自分の間違えに気づいた んならこんな喜ばしいことはない。
  相談役代理補佐の役目も果たせたしな。
(委員会の影の支配者は私か?
 でも相談役として相談にのっただけだから 違うだろう。
 うん、違う違う、違うと思うな。)

  結局私の今年の夏休みはすごーく長かった。
本当の夏休みは8月29日までだったが、いろいろあって私の機械が使えないので 再び研究テーマを変えることになった。
  これにより私がいろいろ論文を探してテーマを考えることになった。当然図書館で 調べるのだが夏休み中は5時でしまるので、この時点でその日は終了。
  さらに奴が海外の学会に行くので9月10日から18日までいなかった。
これらのおかげで私の夏休みはほとんど1ヶ月以上あった。

  今年のうちの研究室は非常に楽だ。夏休みがこれだけあれば、少々普段がきつくても 他の研究室と同じ位かな?